銭湯の匠【1】

宮造り銭湯を支えるプロフェッショナル
冨士 博さん

宮造り銭湯を支えるプロフェッショナル

今でこそ、マンションの一階に建てられた銭湯も多くなりましたが、やはり銭湯のイメージは、高い煙突がたった宮造り形式の銭湯を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。
平成元年の東京都の銭湯数は1,976件、平成30年9月現在では552件(東京都福祉保健局資料より)と年々減少をたどっています。また、銭湯のリニューアル化に伴い、現代風のおしゃれでモダンな銭湯が増えています。
昭和に建設された銭湯のボイラーの修繕やタイル張り、背景画などを手がける職人も高齢化を迎え、どんどん減少しています。その当時の銭湯の建築や修繕を行う職人も同様です。

今回、取材をさせていただいた飯高建設株式会社の取締役、冨士博さんも貴重な昔ながらの銭湯の建築、修繕を行えるひとりです。
現在、冨士さんは70歳。二十歳の時に同社に入社して50年。今では都内で、木造建ての銭湯の修繕をできる会社は、数件と言われています。

冨士 博さん

「銭湯は湯気や水の流れ、天井が高く広い面積を支える柱の構造など普通の建築知識にはない、特殊な技術が多いよね」と冨士さん。
昭和の中頃までは、銭湯の建築も多く、職人を数十人抱え、1日で数件掛け持ちすることも珍しくはなかったようです。とても温厚な冨士さんですが、当時は工期を間に合わせるゆえに、設計師や施主ともよく喧嘩をしていたそうです。

取材は、都内の銭湯の小露天風呂の屋根の改修を行っているところにお伺いしました。この銭湯では大露天風呂もあり、この建設も冨士さんが手がけたものです。
近隣には、マンションも立ち並ぶこともあり、屋根のつけ方もなるべく空を眺められるようにしながらも、近隣マンションから中が見れないようにする工夫が施されています。

「先代からずっと冨士さんに頼んでいます。やっぱり安心感がありますし、細かいところまで目配りをしてもらえるので助かっています」と銭湯のご主人。
この日も仕事を終えた冨士さんは、銭湯をゆっくり見回し、気になるところをチェックして周ると、入り口のドアの建てつけが気になったのかササッと修理を行っていました。

冨士 博さん

現在は、50年来ともに仕事を続けてきた職人と、後を継ぐ息子さんと行動をともにしています。
息子さんも7年ほど経験を積んでいますが、「まぁ、一通り仕事を覚えるには10年はかかるよ。仕事先に行けばどうしても依頼された仕事以外のことも発生するからね。その辺の応用ができるまでにはまだまだだね」と冨士さん。

冨士 博さん

厳しいことを言うのは、それだけ後を継ぐ息子さんへの期待の裏返しと、お話を聞きながら感じ取れました。
現在では、宮造りの昔ながらの銭湯の建築はなく修繕が主な仕事、少しでも長く維持させることが今できる自分の仕事と言います。

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