もはや文化遺産!銭湯の釜入れ(ボイラー交換)工事が格好良すぎる
作業服でこんにちは、セントーライターのヒヅメです。
いきなりですが今回は、毎日何十トンものお湯を用意する銭湯の設備や職人たちの様子をご紹介します。
先に言っておきますが今回の記事……
他では絶対得られない写真が満載です!
もはや文化財級!
じゃ早速行ってみましょう!
1日目 8:30 既設ボイラー解体
本日取材させてもらうのは府中にある「旭湯」。お湯を沸かすためのボイラーを交換する、業界用語でいう「釜入れ」工事にお邪魔させてもらいました。
そしてこのダンディな人が今回釜入れの案内をしてくれる上尾製作所の上尾さん。関東圏内の銭湯のボイラー工事を一手に引き受ける通称「釜屋さん」だ。
ヒヅメ:
本日はよろしくお願いします!
上尾さん:
こちらこそよろしくね。今新しい釜を入れるために、昔の釜を切り取って外しているところだよ。
これが今日の現場。真ん中の枠に入っているのがボイラー
上尾さん含む5人の職人さんがボイラーを外している。真ん中に写っているのがボイラー(釜)を入れるための容器「サヤ」だ。
上尾さん:
じゃ、俺は作業に戻るから、写真は好きに撮ってね。
ヒヅメ:
ありがとうございます!
※読者の皆さんは部屋と機器の配置関係が分かりにくいと思うのでイラストにしておきますね。
現場の機器配置イメージ図
現場の機器配置はこんな感じ。上の写真で上尾さんが乗っているのがボイラーで、その周りを囲っている入れ物はサヤと呼ぶらしい。
ジジジジジ
現場ではガスバーナーで既設ボイラーを解体したり
ガンッガンッ
ボイラーから出た煙の通り道「煙道」をボイラーから切り離したりしています。
所変わってこちらはボイラー室の入り口から撮った風景。
ジジジジジ
この蓋をバーナーで切り取ると……
バックヤード側が見えるようになりました。
解体したボイラーは外に出していきます。
よいしょ。よいしょ。
ぶわあああああ
解体した時に出た粉状のごみをかき出す様子。水の中に含まれる物質が長年にわたってボイラーに付着するらしい。おかげでバックヤードは粉塵だらけ。職人の皆さんも顔が真っ黒。
ボイラーが無くなり空っぽになったサヤ
ヒヅメ:
すっかり空になりましたね。
上尾さん:
うん。そしたら今度はこの新しいボイラーを入れていくよ。
どどーーーん!
ヒヅメ:
凄い迫力!これ上尾さんが旭湯のためにオーダーメイドで作ったんですか?
上尾さん:
そう、うちの工場でね。カタログ品のボイラーじゃないから1つ1つ作らないといけないんだよ。
上尾さん:
一服したらボイラーを搬入しようか。
ヒヅメ:
タバコ姿がいちいちカッコいいなあ。
1日目 11:30 新設ボイラー搬入・仮据付
ボイラーの上に鉄パイプでできた三脚をおいたら、ボイラーを紐にくくりつけて……
持ち上げる!
トラックを前に出して一旦仮置き。
上尾さん:
よーし、中に入れていくよー!
ヒヅメ:
搬入の様子はみんなのためにタイムラプスにしたから見てね!
おおおおおおおおおおおおお!!!!!
みんなは30秒で見てるかもしれないけど、実際には20分くらいかかってるからね。少し位置を調節しては少し動かしての繰り返し。
職人さん:
おーい!そこのお兄ちゃん!もう中から撮った方が面白いと思うよ!
ヒヅメ:
はーい
職人さんに誘われ、この狭い隙間からバックヤードに入る。
職人さん:
よーし、持ち上げるぞ。1、2の、3!
ずおおおおおお!
ヒヅメ:
かっけぇぇ!!船かクジラが波を割って突き進んでるみたい!!
上尾さん:
(何がそんなに面白いんだろう。サヤの中にまで入って写真撮ってる……)
職人さん:
下ろしていくよー!
ギャリギャリギャリギャリ
チェーンが回る音がバックヤードに響き、少しずつボイラーがサヤの中に収められていく。
きっちりハマるように、ボイラー室側からも調整して仮置き。
ちなみに、「調整」って2文字で表現してるけど、実際には仮置きするまで1時間半はかかってるからね。若干ぶつかり合う部分を少しずつ切り取って、また合わせてとかってやってると時間はあっという間。
ジュバババババババ
無事に据え付けられたら仮止めと呼ばれる溶接をしていく。
煙道側に飛び出した配管も切り取る位置を残しておく。
上尾さん:
うん、今日はこんなところだね。
ヒヅメ:
お疲れさまでした!
上尾さん:
じゃ、俺らは廃材をクズ屋さんに持って行くから。また明日ね。
これにて1日目終了!時刻は16時頃。工事現場は始まりも終わりも早い。
2日目 8:30 溶接、水漏れ確認
僕が約束の時間通り現場に着くともう工事は始まっていた。サヤ管と呼ばれる配管を新設ボイラーの上に戻している。
ヒヅメ:
おはようございます!
上尾さん:
おはよう。釜入れとしての目玉は昨日かもしれないけど、今日もよろしくね。
ヒヅメ:
いえいえ、今日もよろしくお願いします!
煙道側の配管は昨日マークした通りに切断。
ジュバババババババ
サヤとしっかり固定した後は煙道に向かうダクトを溶接。
その間にモルタルを準備したら
煙が漏れないようダクトの下側にある煙道を新しくレンガで補修していく。
上尾さん:
この間にサヤ内に水を満たして一服後に水漏れ確認しよう。
ヒヅメ:
はい!
職人さん:
んじゃ俺が飲み物買ってくるよ。
ヒヅメ:
あ、僕も行きます!
買い出しに来ました
省略していたけど、工事中は1段落ごとに一服休憩が入る。実は毎回飲み物をごちそうしてもらっていたので、せめて買い出しのお手伝い。これもごちそうになっちゃったけど。
休憩中のひとこま。いちいち絵になるなあ。
昨日から思っていたんだけど……
職人さんの手ってかっこいいなあ。
ペットボトル持ってるだけなのにカッコいいわ。それに引き換え……
僕のは「甘やかされて育った者の手」って感じだ。
2日目 10:30 サヤ周囲の工事
一服後はサヤの上に敷く板を作っていく。この方は穴倉屋と呼ばれる「サヤ」専門の職人さん。
ヒヅメ:
サヤにも専門の職人さんがいたんですね。
穴倉屋さん:
そうだよ。昔はこのサヤも浴槽も木製だったんだよ。そん時は全部穴倉屋がそれを作ったんだ。
ヒヅメ:
え?銭湯の浴槽が木製だった時代?僕今年33ですけど、見たことないですね。
穴倉屋さん:
30年前じゃあもうほとんどなかったかもな。今じゃもう俺が最後の穴倉屋だと思うよ。
ヒヅメ:
マジか。そんな絶滅危惧な職人さんだったとは。
穴倉屋さん:
今度仕事の依頼入ったらウチの作業場呼んでやるよ。
ヒヅメ:
はい!ぜひお願いします!
カカカン カカカン
ノミでリズムよく板を製作する穴倉屋さん。
一旦板を乗せて位置を仮決めしたら……
糊付けして、板を固定させる。
その間に水は満タン。水漏れが無く水がちゃんと循環していることをしっかりと確認。
ヒヅメ:
あれ、この紐は?
穴倉屋さん:
これは上に載せる蓋を動かしやすくするための紐だよ。
ヒヅメ:
へー!
穴倉屋さん:
よし、そしたら蓋していくか!
厚さ7センチもある巨大な板の蓋をサヤの上に乗せていく。この蓋、見た目通りとても重いんだけど、さっきの紐のおかげで板の上を滑らせることができる。
穴倉屋さん:
70過ぎたらこんな板重たくて持てねえよ。
ヒヅメ:
え!70超えてたんですか!
穴倉屋さん:
そうだよもうジジイだよ。よし、出来てきたぞ。
じゃーーーん!
写真では分からないけど、蓋の周囲には金具があって、蓋が動かないようになっている。
蓋を傷つけないよう当て板を金づちで叩いて、蓋のフチが並ぶように調整していくと……
うーん、お見事。
一体何年叩き続けてきたんだろうというくらい年季の入った当て板と金づち。
煙道も無事レンガ積みが終わり
ボイラー室側も溶接完了。ガスバーナー装置を元の位置に戻す。
上尾さん:
さ、昼にしようか。
ヒヅメ:
待ってました!見ているだけなのにすっごいカロリー使いましたよ。
食事は近くの「そば屋さん」で
職人さん:
近くにそば屋があってラッキーだったね。
ヒヅメ:
うちのおじいちゃんも中華料理屋のこと「そば屋」って呼んでいたな……
70過ぎてもラーメンライスと餃子
実は取材の2日間、お昼、お茶と完全にごちそうになった僕です。それにしても職人さんは本当によく食べる!
ヒヅメ:
美味い。塩分が神の恵みに感じる……
職人さん:
汗かいたもんねえ。
ヒヅメ:
見た感じほぼ完成してましたけど、あとはどんな作業があるんですか?
上尾さん:
あとは片付けして帰るだけだね。
ヒヅメ:
やっぱり現場の一日は早い!
2日目 13:30 片付け
食後は上尾さんが言った通り片付け作業。昨日大活躍した三脚ともここでお別れ。
ガスバーナーや溶接に使う機材も続々とトラックに。
上尾さんはガスバーナーがきっちりと動いているかを最終確認。蓋も新しくペンキ塗りされていた。
職人さん:
おーい。全部トラックに乗せ終わったよ。
上尾さん:
はーい。ありがとうねー。
ヒヅメ:
お、ということは……?
だいたい14時半くらい。早い。
ヒヅメ:
2日間本当にありがとうございました!あとお昼とお茶ごちそうさまでした。
上尾さん:
ははは。いやいや2日間お疲れさまでした。
ヒヅメ:
正直めちゃくちゃ良い記事になりそうです。見てください、カッコいい写真がこんなに。
上尾さん:
本当だ。よく撮れてる。
ヒヅメ:
多分日本初の釜入れ記事になりますよ!!
上尾さん:
(そんなに面白いものかなあ……)
ヒヅメ:
全国の銭湯ファン垂涎の的。
上尾さん:
ははは。じゃ、俺は帰るよ。本当にお疲れ様ね。
ヒヅメ:
はい!ありがとうございました!
今日も日本中の銭湯が一生懸命お湯を作り、人々を温めている。
この職人さんたちも
今日もどこかの銭湯でその舞台裏を支えている。
ヒヅメ:
そんなことを、日本全国の銭湯ファンの皆さんに知って欲しーーーーい!
取材協力:
旭湯(東京都府中市)
上尾製作所(埼玉県吉川市)
この記事を書いたセントーライター
ヒヅメ
漫漫画を描くことと銭湯が趣味のサラリーマン。
前職で発電所の建設現場担当をしていました。
素晴らしい取材、いい記事ですね!
面白かったです!
職人さんとのやり取りの様子が伝わってきます笑