温かな薬師の率いる銭湯
薬湯はなぜ薬湯というの?
本日ご紹介する銭湯は、墨田区向島に位置する薬師湯です。
地下水を使用する昔ながらの銭湯で、スカイツリーのほど近く、再開発が著しい墨田区向島に位置します。
薬師湯から見上げたスカイツリー、壮大な写真が撮れます
由来はおそらく、かつてこの地にあった曳舟川に架けられていた薬師橋からかな?と思うのですが、そもそもこの「薬師」という言葉は、漢方や生薬等を専門とする医者の古語でもあります。(読みはくすし)
そうなると頭に浮かぶのは、銭湯にある入浴剤を入れた薬湯。
気になって調べたところ、元々「くすり湯」という銭湯向けの入浴剤があったそうです。
これは製薬会社の業務工程で出る「生薬の残り」であり、社員が持ち帰ってお風呂に入れたところ保温効果があったため、製品化したとか。
なので、当時は本当の意味で「薬湯」だったのですね。
入浴剤が一般化した今でも、銭湯ではその名残で薬湯という言葉が残っているそうです。
そして、薬師湯の触れ込みは「百種の日替わり湯」。
薬湯のスペシャリストがいる銭湯が、ここ薬師湯なのです。
薬師湯の最大の特徴
普通の銭湯にも薬湯というものは多くあり、曜日ごとだったり週替わりだったり色々です。
しかし、薬師湯はその比ではありません。
触れ込み通り、本当に百種の入浴剤から店主によって毎日選ばれています。
ラインナップを考えることは非常に頭を使う行為。
この日はこれがいいかな…なんてことを、1日ごとに考える負担は計り知れません。
これはひとえに店主さんの熱意のなせる技だと思います。
そんな店主さん、ご存じの方も多いと存じますが、全員が銭湯を経営していることで有名な「長沼三兄弟」の長男、秀三さんです。
実は薬師湯に初めて行く前に、ご兄弟の「寿湯」「萩の湯」に行っていた僕は、薬師湯に期待はしつつも、その2つの銭湯の素晴らしさから「あの2つの銭湯にかなうのかな〜」なんて思っていました。
寿湯と萩の湯は誰もが認める名銭湯。
東東京の誇る長沼御三家、最後の薬師湯はどんな銭湯なのでしょうか。
いざ薬師湯に
着いてみると、まず爆音で「温泉サウナ銭湯〜〜!!!」という曲が流れています。
OFR48さんの曲で、薬師湯の国歌です。
この位置でも爆音で聞こえている
入るとロビーが広がり、ダイエット器具やマッサージチェアが並んでいます。
まるで田舎のでかいおばあちゃんちのような空気に包まれており、すごく落ち着きます。
駄菓子やちょっとした物販スペースも充実しているので、お風呂上がりの至極の時間を思う存分楽しむことができるのです。
(薬師湯公式HPより引用)
さて、いよいよ浴室に入場です。
大きな湯船がドンとあり、丁度いい塩梅のバイブラが吹き出しています。
手前にあるのは2人がけの寝風呂で、そこに仕切りがあり高温風呂となっています。
タワー風呂に染まる浴槽(薬師湯公式HPより引用)
この記事を書くため訪れた日のお湯は、お菓子シリーズ入浴剤「モロッコヨーグルの湯」。
大きな湯船に一見硫黄泉のような、濃い白色のにごり湯が特徴で、見た目から心を掴まれます。
浸かってみると、360度ヨーグルトの匂いが漂っており、とてつもない多幸感に包まれるのです。
男湯のタイル絵はモルディブ的な水上コテージが映える海の絵ですが、(なんとBSにて放送中ののの湯のポスターにこの絵が映っています!)公式HPから見れるGoogleインドアビュー情報によると、女湯は地中海の街並み。
どちらも、青が映えるデザインで、浴室を爽やかに引き立ててくれます。青い入浴剤の日はそのまま絵の中に吸い込まれていくような気分です。
日替わりの薬湯への拘り
薬師湯の代名詞である薬湯への拘りは並大抵ではありません。
通常入浴剤のバリエーションはもちろん、色々な入浴剤を配合して「トムヤンクン風呂」なるものを作ったり、パイナップルとアップルをぶち込んで某ピコ太郎を彷彿とさせたり、とにかく規格外の世界が広がっています。
さらに、サービス精神にも事欠きません。
営業時間はAM2時までなのですが、閉店前まで入浴剤を追加してくれるので、湯船のお湯が薄まることがないのです。
そして日にもよりますが、水風呂にまで入浴剤が使われています。
この水風呂には打たせ水まで備わっており、何度でも交互浴をしてしまうのです。
特に薬師湯名物、スカイツリーの照明をイメージし、色を変化させていくタワー風呂の日があるのですが、この日は多くの人が色の変化を見届けるべく、水風呂との無限往復を繰り返す修羅となります。
白からスカイツリーの代表的なライティング「粋」をイメージした青に変わって行く様子(薬師湯公式HPより引用)
薬師湯の持つ魅力
薬師湯には、施設自体の魅力、創意工夫の魅力に加え、なんと言っても人の魅力があるのです。
ある有名な温泉街に行った際、実感したことがあります。
そこは大きな旅館が名を連ねており、豪華な温泉があるのかな?と思いながら訪れたのですが、あるのは普通の公衆浴場。
畳2畳の温泉に、居合わせた人と譲りながら入ります。
しかしその温泉がとても気持ちよく「豪華で特別な温泉も良いけど、本来温泉は地域に根ざすもっと身近で温かなものなんだ。」と感じたのです。
薬師湯も、地域に根ざす身近な町の銭湯。
上述した寿湯や萩の湯よりも施設の規模は小さいですし、特別豪華なお風呂ではないのかもしれません。
それでも、魔配合で新たな入浴剤を作り出す研究者のようなご主人に、いつも明るく声をかけてくれる女将さん。
薬師湯という空間が作り出す柔らかな温かさがあり、それは他の施設とはまた一線を画すもの。
一筋縄で勝った負けたと測れるものではないのです。
明るいフロント、いつも女将さんか店主さんが迎え入れてくれる(薬師湯公式HPより引用)
少し話が変わりますが、YouTubeが出て来た頃、ラジオという文化に陰りが見えました。
好きな時に、好きなアーティストの曲が聴けるYouTubeによって、ラジオはもうなくなってしまうのではと話題になりました。
しかし、あなたがこれを読んでいるこの時も、ラジオからは音楽が流れ続けています。
ラジオは消えなかった。それは「人が流している音楽」だからです。
薬師湯も同じで、「人が作っている場所」だから残り続けるのだと思います。
入念に考えられている替わり湯の予定表、こうやって薬師湯は作られている
とはいえ、銭湯というカルチャー・コミュニティが縮小しているのは事実。
銭湯の世界の人たちは、あらゆるアイデアと情熱で今の世の中に立ち向かっていますが、我々利用者にもできることがあります。
Support your local
僕が知るカルチャーの中に「Support your local」という言葉があります。
直訳だと「あなたの地元を支えよう」という意味ですが、自分が支持する場所やカルチャーを、色んな面からサポートしようというスローガンです。
銭湯というカルチャーにも、言葉はなくとも考えは浸透していて、このWEBサイトもその1つ。
別に大げさなことをすることだけがサポートではなく、友達を連れて行ったり、SNSで発信してみたり、きっと自分にできる形でいいのです。
そういった人々による「サポート」の集大成が力を生み、昨今沸き立つある銭湯ブームの輪郭が作られています。
日本はお国柄、「サポートして欲しい!」と声を上げにくい環境です。それなら、我々利用者から声を上げていければと思います。
そして、この動きが大きくなればカルチャーは広がり、新たな可能性が現れてくると思うのです。
最後に
今月、よく行く銭湯が廃業してしまいます。
そこには及びもつかない事情が多々あると思いますが、少なくとも熱意を持った人が続けている銭湯を、悲しい理由で無くしたくはありません。
薬師湯入り口に飾ってある龍の置物。これは惜しくも廃業した銭湯、曳舟湯さんのタイルで作られているそう
自分には他に何ができるんだろう。
何か銭湯の魅力を伝える方法はないかと考えて、それならばと、勝手ながら僕の持つイメージを投影した薬師湯のポスターをデザインしてみました。
沢山の日替わり薬湯の持つ様々な色合いを使い、レトロな雰囲気のステンドグラスにしています。
デザインは引き算というセオリーをぶちやぶり、
色々な要素を盛り込みましたので、
よかったらよく見てみてください
あなたも銭湯に行ったら、お風呂上がりに一言つぶやいてみることから始めてみませんか?
Let’s Support Your Local!!
この記事を書いたセントーライター
YouSay
大阪育ちの東京住まい。
書くことと描くことが好きで、ライターとして参加致しました。
時折バンドやチャリティーブランドのデザインをしておりますが、銭湯業界参入が密かな野望です…。
薬師湯さんのステンドグラスふうポスター、素晴らしいです!🌈✨